トラウマ度 | ストーリー | 血しぶき | 恐怖度 |
---|---|---|---|
★★★★ | ★★★★ | ★★ | ★★★★ |
幸せな家族を襲う哀しい恐怖の物語。
『ペットセメタリー(1989)』は、ホラー映画を超越した作品である。
『キャリー』や『シャイニング』などで知られるホラーの巨匠・スティーブンキングの代表的な作品のひとつ。2019年にはリメイク版も公開されるなど、現在においても高い人気を博している。
今回は、そんな名作ホラー映画『ペットセメタリー(1989)』のあらすじや感想、考察、ネタバレ解説。スティーブンキングの実体験や知られざる製作秘話、3大トラウマシーンに迫る。
本記事が、『ペットセメタリー(1989)』でエキサイティングするきっかけになれば幸いだ。
ホラー映画『ペット・セメタリー(1989)』作品情報
原題:Pet Sematary
製作国:アメリカ
公開:1989年
収録時間:102分
<スタッフ>
監督:メアリー・ランバート
原作/脚本:スティーヴン・キング
音楽:エリオット・ゴールデンサール
製作:リチャード・P・ルビンスタイン
<キャスト>
ルイス・クリード:デイル・ミッドキフ
レイチェル・クリード:デニース・クロスビー
ジャド・クランドール:フレッド・グウィン
ヴィクター・パスコー:ブラッド・グリーンクイスト
エリー・クリード:ブレイズ・バーダール
ゲイジ・クリード:ミコ・ヒューズ
スティーヴン・キング(カメオ出演)
ホラー映画『ペット・セメタリー(1989)』あらすじ
妻子を連れて田舎町に越した医師のルイスは、家の前の通りを大型トラックが行き交うことに驚く。ある日、トラックに轢かれた飼い猫を近所のペット用墓地に埋葬すると命を吹き返す。奇妙な現象に驚くなか、幼い息子ゲイジがトラックに轢き殺されてしまうが。
出典:U-NEXT:ペット:セメタリ―
ホラー映画『ペット・セメタリー(1989)』製作秘話
哀しく恐ろしい愛の物語
モダンホラーの巨匠、スティーブンキング氏による禁断のホラー映画。
原作の小説を書き終えたスティーブンキングは、「これはひどく恐ろしい。とても世に出せない」と、発表を見送っていた。
家族愛や人間の愚かさをテーマにしているが、子供の無残な死を中心に描かれているからだ。
映像化された本編も、例えようのない感情が込み上げてくる。
特に子供を持つ親であれば、尚更だろう。
私は、映画『ペット・セメタリー』が好きで、これまでに何度も観ている。
展開も描写も完全に見慣れているにもかかわらず、鑑賞のたびに涙してしまう。
それほどまでに、哀しみと恐怖が心の底に突き刺さり、愛とはなにか、人間とはなにか、幸せとはなにかと、深く考えさせれる。
『ペット・セメタリー』は、他のホラー映画とは一線を画す傑作だ。
実際に起きた出来事がモチーフ
『ペット・セメタリー』の原点は、スティーブンキング自身の実体験である。
Pet Sematary
1970年代、スティーブンキング一家は大型トラックやトレーラーが行き交う道路に隣接した家で暮らしており、家の裏の森には近所の子供たちが作ったペットを祀る墓地があった。
この墓地の入り口にあったゲートには「Pet Sematary(ペットセマタリー)」と書かれていた。
正式な綴りは、「Pet Cemetery(ペットセメタリー)」である。
これは、子供たちが綴りを間違えたものであるが、スティーブンキングは「Pet Sematary」をそのまま作品タイトルとして使った。
飼い猫の死に直面
恐怖の実体験はここからだ。
ある日、娘のナオミが飼っていた猫がひかれて死んでしまったのだ。
娘より先に猫に死に気づいたスティーブンキングは、家の裏にあるペットの墓地に、猫を埋葬した。
そのとき、娘に何と説明すればよいか考え込んだという。
「死んだ猫が生き返れば…」
そして「もしこれが人間だったならば…」と、作家としての想像がはじまった。
ペットの墓地で人間が蘇るのは不自然だと考えたスティーブンキングは、邪悪なインディアンについて書かれた本を手に取った。
その本でヒントを得て、森の頂に呪いの墓地を創設したのだ。
助かった我が子
映画では、ルイスの息子ゲイジがトレーラーにはねられて死亡してしまう。
この瞬間のモチーフも、スティーブンキングが遭遇した恐怖の体験がもとになっている。
実際には、スティーブンキングの息子オーウェンは事故に遭っていないが、家の道路に出ようとした幼い息子を走って追いかけた。道路に出る前に息子をつかまえ、危機を回避したことがあるという。
このような実体験を基にして、『ペット・セメタリー』は誕生した。
物語にリアル感や説得力があるのも、納得だ。
映像化においても、自らがあらたに脚本を書き下ろすなど、スティーブンキングの強い思い入れがうかがえる。
違和感のないストーリー展開、狂乱した人間の様相、恐怖の引き出し方など、スティーブンキングは奇才ぶりを存分に発揮。
そうして完成した映画『ペット・セメタリー』は、スティーブンキングの映像化作品の中でも最高の出来栄えになったのだ。
ホラー映画『ペット・セメタリー(1989)』感想・考察・ネタバレ
ここからは、劇中の好きなシーンや見所など、感想や考察をネタバレありで書いていく。
真っすぐなストーリーが生む恐怖
『ペットセメタリー』には、伏線や謎解きするような要素はない。
どの場面においても、「この後一体どうなるんだ」ではなく「やっぱりそうなったか」というように、次の展開が容易に予想できる単純な構成だ。
だからといって、決して物足りないわけではない。
たとえ結果がわかっていたとしても、覚える恐怖は想像をはるかに超えてくるのだ。
中途半端な伏線や頭を使わせる展開が入ると、物語に集中できなくなってしまう。
そうではなく、ストレートで単純であるからこそ物語の恐ろしさがより鮮明になる。
その具現化に成功しているのが、『ペットセメタリー』だ。
それができたのも、スティーブンキングの才能あってのことだろう。
存在感が際立つサブキャラクターたち
水先案内人・パスコー
映画序盤にトレーラーにはねられて死亡する若者で、幽霊として度々登場する。
要所でルイスに忠告したりレイチェルやエリーを助けたりと、物語に欠かせない存在である。
頭が砕け、髄脳が流れ出たグロテスクなビジュアル。どう見ても、この世にさまよう悪霊である。
その恐ろしい見た目とは相反した性格で、実は優しく穏やかなキャラクター。「いい奴」なのだ。
どことなく愛着が湧くパスコー。
私的には一番好きなキャラクターで、パスコーのスピンオフを見たいくらいだ。
エリーの飼い猫・チャーチ
丸々としたフォルムに小さな耳、ふさふさの毛並み。猫好きにはたまらない、ブリティッシュ・ショートヘアーだ。
そんな愛らしい猫チャーチは、自宅前の道路でトレーラーにひかれて死んでしまう。
流れ出た血肉が固まり、地面にへばりつくチャーチの亡骸。生々しく痛々しいチャーチの姿に目を覆いたくなる、いたたまれないシーンだ。
しかし、人間の犠牲となったペット・チャーチの死が、ルイス家の運命を大きく動かすことになる。
そこから、悲しく恐ろしい物語がはじまるのだ。
『ペットセメタリー』というタイトルなだけあり、登場するペットがこれほど印象に残るホラー映画は他にない。
ペットとして登場するチャーチは、本作を象徴する最重要キャラクターなのである。
レイチェルの姉・ゼルダ
病気で寝たきり状態のゼルダ。
体は骨が浮き出るまで痩せこけ、いつも悲痛なうめき声を上げている。
レイチェルは子供のころ、両親の言いつけで怖がりながらもゼルダの介護をしていた。
幼少期の体験がトラウマとなったレイチェルは、時折記憶がフラッシュバック。
その際に映しだされるレイチェルの回想シーンや幻覚として、ゼルダは顔を出す。
不気味な動きと表情でこちら側(レイチェル視線)に向かってくるゼルダのインパクト絶大。トラウマ級の破壊力だ。
登場少ないゼルダであるが、場面ひとつひとつが衝撃的。
鑑賞者のほとんどが最も恐怖を感じた人物としてあげるだろう。
トラウマ必至の3大シーン
本編では、ホラー映画にありがちな大きな効果音やびっくりさせるような演出は少ない。
恐ろしいストーリーに加えて、破裂した頭や刃物で切り裂くシーンなどの強烈な描写を織り交ぜ、完全なる恐怖を生み出している。
その中でも、トラウマシーンとして有名ないくつかの名場面を、簡単なストーリーと合わせて紹介したい。
頭ぐちゃぐちゃのパスコー
最初のトラウマシーンは、映画序盤で訪れる。
付近の道路でトレーラーにはねられたパスコ―が担架に乗せられ、ルイスがいる病院へと運ばれてきた。
ルイスが担架で運ばれているとき、粉砕されて血みどろになったルイスの頭が映されるのだが、これがなかなかのグロテスク。思わず眉間にしわがよってしまう描写だ。
ルイスの元に到着したパスコーは、即死状態で手の施しようがなかった。
ルイスはパスコーの死亡を確認。息を引き取り、静まり返った病室のベッドに横たわるパスコーを、ルイスは見守っていた。
その瞬間、死んだはずのパスコーが突然息を吹き返し、「ルイス…。男の心は岩のように硬いものだ…。」とルイスに意味深な言葉を残すのだ。
現実が理解できないルイスは、恐怖に包まれた。
ここから、平穏だった物語に不穏な空気が漂いはじめる。
映画の緊張感が高まり、息をのんで見入ってしまうトラウマシーンだ。
幼いゲイジの死
私の中では、この場面がペットセメタリー最大のトラウマシーンである。
自宅前の広場で、ルイス一家とジャドはランチを楽しんでいた。
凧揚げをするゲイジと姉のエリー。
手から離れた凧が道路の向こう側へ転がり、ゲイジは慣れない足取りで凧を追いかけた。
広場を抜けて道路にでようとするゲイジ。
それに気づいたルイスは、ゲイジの元へと懸命に走りだした。
しかし時すでに遅し。ルイスが間に合うことはなかった。
ゲイジが道路にでたその瞬間、猛スピードで走ってきたトレーラーに無残にもはねられてしまうのだった。
ホラーといえど、映画では子供は死なないのが定石。しかし、ペットセメタリーは容赦なく小さな命を奪い去る。壮絶なシーンだ。
ゲイジがはねられ、ルイスはその場に膝をつき何度も絶叫。
そして、ゲイジとの思い出の写真が映される…。
この残酷すぎる恐ろしい展開に、誰もが大きな衝撃をうけるだろう。
アキレス腱にゆっくりと入り込むメス
映画終盤、ゾンビとして蘇ったゲイジは、命を狙いにジャドの家に侵入。
ゲイジを仕留めようとするジャドであったが、ゲイジの罠にかかり殺されてしまう。
このときのジャドの殺され方が強烈で、まさにホラー映画である。
ジャドのメスを手にしたゲイジは、ベッドの下に潜みジャドを待ち伏せる。
そこに現れたジャドのアキレス腱に、メスを深く切り込んだ。
倒れこんだジャドに執拗に襲い掛かり、今度はメスで口を切り裂く。
そしてジャドを噛み殺すという、なんとも痛々しい描写である。
天使のような顔をした幼子が、悪魔のような残虐な殺戮をする。
注視できないほど恐ろしい、トラウマ必至のシーンだ。
類をみない絶望的な結末
恐怖の物語は、グロテスクと果てしない絶望感で締めくくる。
蘇ったゲイジに殺されたレイチェル。
最愛の妻を失い怒りに震えるルイスは、ゲイジにとどめを刺す。
そして、死んだレイチェルを抱きかかえ、蘇らせようと墓地へと向かった。
目的を果たし、自宅のキッチンでレイチェルの帰りを待つルイス。
そこに、血みどろになったレイチェルが静かに入ってきた。
感極まったルイスは、変わり果てた姿などお構いなしで、レイチェルと熱いキスを交わす。
その最中、レイチェルが手に取ったナイフを振り上げルイスに突き刺すところで、映画は終わりを迎える。
哀しすぎる結末、救いようがないバッドエンディングだ。
ルイスが医者である意味
ルイスは医者として、日常的に人の命に関わり、生と死の狭間を見ている。
命を終えた肉体が蘇るはずがないのは、誰よりも理解しているはずだ。にも関わらず、結果の知れた愚かな行動をとってしまう。
医者であるルイスがとる愚行は、より狂気に満ちたものであることを表しているのだ。
生命と肉体に通じた人間でさえ、愛する人の死を正しく解釈することはできない。
愛情と哀しみは、人を錯乱させる恐怖の根源だ。
ホラー映画『ペット・セメタリー(1989)』感想・考察の総括
物語を観ながら「自分だったらどうするだろうか」「ルイスと同じように墓地に埋めるだろうか」と、自分に置き換えた想像をしてしまう。
それは、劇中で描かれている愛情や哀しみに共感しているからである。
愛する人を失ったとき、最愛の子供をうしなったとき、人はどのような行動に出るかわからない。
ペットセメタリーを観ると、幸せや生と死について深く考えさせられる。
極限に立たされたとき、あなたならどうするだろうか。
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